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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)163号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人川口庄蔵の上告理由について。

職権をもつて按ずるに、原審は、訴外斉藤善蔵は昭和一六年一一月以降本件土地を当時の所有者柳下秀雄から賃借しその地上に建物を所有していたところ、昭和二〇年四月強制疎開によりその建物を除却されたが、右土地の賃借権はこれを保有していたこと、上告人は右建物の除却当時これを訴外斉藤善蔵から賃借していたこと並びに上告人は昭和二一年三月同訴外人から右土地賃借権の譲渡を受けたが賃貸人の承諾をえられなかつたことをそれぞれ確定した上、上告人の右賃借権の譲受は罹災都市借地借家臨時処理法施行前であるけれども、同法施行とともにその保護を受け、右譲受は同法九条、三条および四条により賃貸人たる訴外柳下秀雄の承諾があつたものとみなされるべきものであると解したのである。

しかし同法施行前になされた土地賃借権の譲受につき前記諸法条の適用を認めることは、根拠なくして法律の遡及適用を肯定するに帰し、その違法たるを免れないと解すべきであつて、この理は、当裁判所において、同法施行前の調停による賃借権設定の場合につきすでに判示したところである(昭和二七年(オ)第一一六号、昭和二九年一一月二六日第二小法廷判決)。されば、原審確定の前記事実によつては、上告人は右賃借権の譲受をもつて賃貸人たる訴外柳下秀雄に対抗することができず、したがつてまた本件土地の取得者たる被上告人に対しても右賃借権を対抗することはできないものといわなければならない。

果して然らば、本件土地が前記処理法施行当時進駐軍により接収されており、法令上その上に建物を築造することが不能であつたため、同法三条、二条による借地権の譲渡申出をすることができない場合に該当するとした原判決の判断は、既に同法の遡及適用ありとしたその前提において違法があるけれども、上告人の本訴請求は理由がないものとした結論においては結局正当に帰するから、所論はすべて理由なきに帰するものである。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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